2026年9月17日、日本円連動型ステーブルコイン「JPYC」が韓国最大手の暗号資産取引所Upbitに上場した。取引開始直後からJPYCの価格が本来の価値(1JPYC=1円)から大きく乖離して高騰し、SNS上で「100万円分のJPYCが330万円相当のUSDCになった」とする実際のスワップ画面のスクリーンショットが拡散、大きな話題となっている。
【2026年9月28日追記】韓国の国会議員の事務所がUpbitから受け取った資料で、JPYCを1円より高く買った人数と損失額が明らかになった。約2.1万人が高値で買い、9月21日時点の保有者の含み損は約5.8億円。続報を読む
何が起きたのか
Upbit Koreaは2026年9月17日、KRW・BTC・USDTの各市場でJPYCの取引サポートを開始した。取引開始は当初12:00(KST)の予定だったが、15:00、18:00と2回延期され、18:00(KST、日本時間と同じ)に始まった。ところが取引開始直後からJPYCの価格が急騰し、SNS上では「JPYCが1ドル=47円」「1ドル=66円まで高騰」といった報告が相次いだ。本来のドル円相場(2026年9月17日時点で1ドル=156円前後)に照らすと、JPYCが実質2〜3倍以上の価格で取引されていたことになる。
実際に、100万JPYC(本来は約6,400〜6,900ドル相当)をスワップした結果、21,302USDC(約331万円相当)を受け取ったとするスクリーンショットがX上で14万件超のインプレッションを集めて拡散した。

なぜこんなことが起きたのか
SNS上では「日本円の相場を知らない韓国人ユーザーが、レートを理解しないままJPYCを買い漁ったのではないか」との推測が広がった。JPYCはステーブルコインであるにもかかわらず値上がりを期待して買われてしまい、上場直後の薄い流動性の中で価格が吊り上がったとみられる。
この騒動を受け、JPYC株式会社の代表取締役・岡部典孝氏自身がX上で「ステーブルコインは取引所に上場しても上がりませんよ。BOTが勘違いして買っているのか、初期流動性狙いか?」とコメントし、当事者である発行体側も価格急騰の原因を把握しきれていない異例の状況であることがうかがえる。
Upbitに上場した銘柄が取引開始の直後に急騰しやすい仕組み(5分間の買い注文の制限など)と、2026年10月に上場した6銘柄のその後の値動きは、Upbit上場で急騰するのはなぜ?10月の6銘柄の値動きで解説しています。
今すぐ真似しても大丈夫か?【注意点】
結論から言うと、この記事を読んでいる時点で同じ利益を再現できる保証はない。理由は以下の通り。
- 裁定は一時的な現象:価格の歪みに気づいた投資家が次々とJPYCを売ってUSDT/USDCに変換するため、価格差は急速に縮小・消滅する
- スリッページのリスク:スクリーンショット上の見積もりレートは、実際に大口で約定させると板の薄さにより大きく崩れる可能性が高い
- JPYC自体の信用は毀損していない:今回の異常はUpbitという特定の取引所における二次流通市場での価格の歪みであり、JPYC公式の発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」では引き続き1JPYC=1円で償還可能。JPYCの裏付け資産(円預金・日本国債)に問題が生じたわけではない
本記事は投資助言ではない。実際に取引を行う場合は自己責任で、レートとスリッページを必ず自分の目で確認してから判断してほしい。
JPYCとは
JPYCは、JPYC株式会社が発行する日本円建てのステーブルコイン。2025年8月18日に資金決済法上の資金移動業者(関東財務局長 第00099号)として登録され、同年10月27日に発行を開始した。1JPYC=1円で発行・償還できる規制対応の円建てステーブルコインとして展開されている。仮想通貨クレジットカードとの連携など、日本円をオンチェーンで扱う手段として存在感を強めている(関連:日本で使える仮想通貨クレジットカード比較)。
【続報・9月18日未明】デペッグは数時間経っても継続中、最大4倍まで拡大
本記事公開時点からさらに時間が経過した2026年9月18日未明になっても、この価格の歪みは解消していない。X上では「JPYC(1枚1円のはずのコイン)がDEX上で1枚1.7円〜4円ほどで売れる状態が数時間発生」「13万円が48万円になった」といった報告が続いており、当初確認された2〜3倍から、最大約4倍まで価格差が拡大していることが確認された。発生源もUpbitの二次流通にとどまらず、複数のDEXに波及している模様。投稿者自身が「デペッグは継続中なので頑張ってくれ」とコメントしており、記事執筆時点でも実際に価格差が残っている状態だが、いつ解消してもおかしくない一時的な現象である点は変わらない。
【続報・9月27日】UpbitでJPYCを高値づかみしたのは何人?韓国で約2.1万人、含み損は約5.8億円
Upbitで1円より高い価格でJPYCを買った人は約2.1万人(21,219人)にのぼった。韓国の国会・政務委員会に所属するパク・ミンギュ議員(共に民主党)の事務所がUpbitから提出を受けた資料によると、上場日の9月17日から21日までの5日間に、JPYCを円換算の基準価格より10%以上高く買った人は21,219人(重複を除く)。買った金額は合計2,598億5,519万ウォン(約302億円)、枚数は127億6,066万枚だった。2026年9月27日に、韓国の経済紙Financial News、Herald Economy、イートゥデイなどが一斉に報じた。
基準価格は、実際に約定した価格を、各取引日の前日の円・ウォン終値レート(100円=874〜886ウォン)と比べて出している(イートゥデイ)。買った金額を枚数で割ると、平均の買値は1枚約20.4ウォン。当時の1円は約8.7〜8.9ウォンなので、平均すると1円の価値のJPYCを約2.3円で買っていた計算になる(当サイト計算)。
| 区分(9月17〜21日、Upbit) | 人数 | 金額(ウォン) | 円換算 |
|---|---|---|---|
| 基準価格より10%以上高く買った人(合計) | 21,219人 | 2,598億5,519万 | 約302億円 |
| うち基準価格の4倍以上で買った | 2,574人 | 82億6,343万 | 約9.6億円 |
| うち3〜4倍で買った | 11,449人 | 854億2,003万 | 約99.3億円 |
| うち2〜3倍で買った | 13,728人 | 1,058億6,281万 | 約123.1億円 |
| うち1.5〜2倍で買った | 5,542人 | 269億4,813万 | 約31.3億円 |
| うち1.25〜1.5倍で買った | 3,223人 | 182億4,163万 | 約21.2億円 |
| うち1.1〜1.25倍で買った | 3,605人 | 151億1,914万 | 約17.6億円 |
| 売って利益を確定した人 | 7,006人(全体の約33%) | 1人平均 45万3,687 | 1人平均 約5.3万円 |
| 9月21日時点でまだ保有していた人 | 3,792人 | 含み損の合計 約50億3,000万(1人平均 132万5,530) | 合計 約5.8億円(1人平均 約15.4万円) |
※価格帯ごとの人数は、複数の価格帯で買った人を重複して数えているため、合計すると21,219人を超える。円換算は1円=8.5986ウォン(欧州中央銀行の参照レート、2026年9月25日分。9月28日に取得)。出典:パク・ミンギュ議員室がUpbitから提出を受けた資料(Herald Economy・イートゥデイ・Financial News、2026年9月27日報道)
利益を確定できたのは3人に1人だけ
高値で買った21,219人のうち、売って利益を確定できたのは7,006人(約33%)で、利益は1人平均約5.3万円にとどまった。一方、9月21日の時点でまだJPYCを持っていた3,792人は、含み損が1人平均約15.4万円、合計で約5.8億円と推計されている(Financial Newsは、この3,792人を「基準価格より50%以上高く買って保有を続けた人」と説明している)。
この集計には、売って損を確定させた人の損失(実現損失)が含まれていない。Herald Economyは、実際の損失は約5.8億円(約50億3,000万ウォン)より大きい可能性があると指摘している(イートゥデイは、売った人を含めた全体の損失額は確認されていないと報じている)。
高値で買った人の損失はどのくらいか
Upbitの公開データでは、JPYCの価格は上場日の9月17日に最高37.6ウォンをつけた後、9月21日の終値は8.62ウォン、9月28日も8.5ウォン台で推移しており、ほぼ1円の水準に戻っている。最高値で買った場合、評価額は約77%減った計算になる。ステーブルコインは「1円に戻る」ように設計されているため、1円より高く買った分は、価格が元に戻るだけで損失になる。
なぜ韓国の投資家が高値で買ったのか
韓国の報道によると、Upbitは上場当初、JPYCの入金をEthereumネットワークだけで受け付けていた。上場前日(9月16日)のJPYCの流通量約18億9,600万枚のうち、Ethereum上にあったのは約1億3,000万枚(6.9%)だけで、売りに出せる量が足りなかった(Herald Economy)。9月17日18時44分ごろにKaiaとPolygonからの入金が追加されると、日本で1円で発行したJPYCをUpbitで売る動きが増え、価格は下がった。JPYCの岡部典孝代表は、Upbitへの上場を事前に知らなかったと説明している(デジタルタイムス)。上場当日にJPYCの発行が急増した経緯は、JPYCの累計発行額100億円突破の記事で解説している。
なお、同じ日にUpbitで取引が始まった米ドル連動のステーブルコインPYUSDも、1,379ウォンから一時1,760ウォンまで上がった後、1,380ウォン台に戻っている(デジタルタイムス)。上場直後のステーブルコインは、売り物が少ないと本来の価格から大きく離れることがある。
日本の読者が気をつけたいこと
- JPYCは値上がりを狙って買うものではない:JPYCは1JPYC=1円の価値を保つように作られている。取引所やDEXでペッグ(1円)から大きく離れた価格では買わない。1円より高く買えば、価格が1円に戻るだけで損をする
- 買う前に「提示価格 ÷ 為替レート」で確かめる:ウォンやドルで表示されている価格は、その時点の為替で円に直すと1円からどれだけ離れているかが分かる。上場直後や売り物の少ない取引所では特に確認したい
- 日本でJPYCを1円で手に入れる正規の方法は、発行元のJPYC EX:本人確認をしたうえで銀行振込で入金すると、同額のJPYCが発行される。JPYC公式サイトによると、3,000円から利用でき、発行・償還の手数料は無料(振込手数料やガス代は自己負担)。手順はJPYCとは?発行方法・償還・手数料を解説で説明している
- 価格差で利益が出た場合は税金に注意:日本の居住者が暗号資産の売買で得た利益は、原則として雑所得になる。会社員など給与所得者は、給与以外の所得の合計が年20万円を超えると確定申告が必要になる
本記事は特定の暗号資産の売買を勧めるものではない。
本続報のデータは2026年9月27日の韓国報道に基づく(2026年9月28日確認)。出典:Herald Economy(2026年9月27日)、イートゥデイ(同)、Financial News(同)、Herald Economy(9月22日)、デジタルタイムス(9月20日)、Upbit公開API(KRW-JPYC日足、9月28日取得)、JPYC公式サイト。為替はFrankfurter API(欧州中央銀行の参照レート)。
【続報・9月29日】HTXにJPYCが上場、取引開始は9月28日22時・出金は9月29日22時からEthereum版のみ
海外の暗号資産取引所HTX(旧Huobi)は、JPYCの現物取引(JPYC/USDT)を2026年9月28日22時00分(日本時間)に開始しました。HTX公式アナウンスによると、入金の受け付けは同日16時00分(日本時間)から先行して始まっており、出金(引き出し)は2026年9月29日22時00分(日本時間)から開放されるとしています(出典:HTX公式アナウンス、2026年9月28日)。
対応するのはJPYCのEthereum版(ERC20)のみで、コントラクトアドレスは0xE7C3D8C9a439feDe00D2600032D5dB0Be71C3c29とHTXは案内しています。JPYCは現在Ethereum・Polygon・Avalanche・Kaiaの4チェーンに対応していますが、HTXでの入出金対象はEthereum版に限られるため、他チェーンのJPYCを送金しないよう注意が必要です。なお、HTXは新規上場トークン特有の値動きリスクとして、最新価格の±10%を外れた成行注文は自動キャンセルされる仕組みを設けています。
HTXでも上場直後に一時約2.4円まで上昇(9月29日追記)
HTXの公開データ(1時間ごとの値動き)では、取引開始直後の9月28日22時台に、JPYC/USDTが最高0.015368 USDT(約2.41円)、最安0.005094 USDT(約0.80円)まで大きく振れました。23時台以降は0.0064 USDT前後(約1円)で落ち着き、9月29日22時台も約1円です(1 USDT=約157円で当サイトが換算。出典:HTX公開API)。Upbitのときと同じく、上場直後の売り物の少なさが原因とみられます。
取引所に上場した直後のJPYCを1円より高い値段で買うと、数十分で1円前後に戻り、損をする可能性が高いです。JPYCが必要なら、発行元のJPYC EXで1円で発行するのが正規の方法です。
まとめ
今回の一件は、ステーブルコインであっても、新規上場の直後は売り物の少なさや投機的な買いによって本来の価格から大きく離れうることを示した。9月27日に明らかになったUpbitの資料では、1円より高く買った約2.1万人のうち利益を確定できたのは約3分の1で、9月21日時点の保有者3,792人には合計約5.8億円の含み損が残った。JPYCの価格はUpbitでもすでに1円前後に戻っている。JPYCは値上がりを狙う銘柄ではなく、日本円をブロックチェーン上で使うための道具であり、手に入れるなら発行元のJPYC EXで1円で発行するのが正規の方法だ(手順:JPYCとは?発行方法・償還・手数料を解説)。




