ビットコインのサイドチェーン「Liquid Network」から約4,000BTC(当時の時価で約3億2,000万ドル相当)が引き出された事件で、実行者が「ホワイトハット」を名乗り、資金の大部分を返還したことが分かった。この記事では、9月6日の第1報から10月2日時点の状況までを、時系列で整理する。
今の状況(2026年10月2日時点)
- Liquid Networkは9月10日に取引が再開し、L-BTCの送金はできる
- L-BTCをビットコインに戻す「ペグアウト」は停止したまま。再開の日程は公表されていない
- 返還されたのは3,400BTC。約602BTCが未回収(Blockstreamの9月23日の報告)
3,400BTC(85%)が返還された
ビットコイン開発企業Blockstreamは9月7日、ブリッジノードの脆弱性を修正したとオンチェーンメッセージで発表した。これを受けて、資金を引き出した当事者は3,400BTC(約4,000BTCの85%、時価約2億6,800万ドル)をLiquidのフェデレーションアドレスに送り返した。
やり取りは全てビットコインのOP_RETURNメッセージとPGP暗号化メッセージを通じて、オンチェーン上で公開の形で進められた。当事者は当初から「ブリッジノードの修正が完了するまで返還しない」という条件を提示しており、Blockstreamの修正完了宣言を確認したうえで送金を実行した。
残る約602BTC(報道では598.5BTC)はどうなるのか
当事者のウォレットには、返還されなかった約602BTC(Blockstreamの9月23日の報告。報道では598.5BTC、全体の約15%)が残っている。実行者はビットコインのチェーン上のメッセージで「10%の報奨金(約600BTC)」を要求しましたが、Blockstreamは9月11日に「許可なく資産を取って返さないのは窃盗であり、ホワイトハットではない」「盗まれた資産の返還に金は払わない」として拒否し、法執行機関や追跡会社と協力して回収を図るとしています(The Block)。10月9日時点で、この分が戻ったという発表はありません。
技術的な原因:Elementsのバグ
Blockstreamは、今回の資金流出の技術的な原因を、Liquidが基盤として使用するオープンソースソフトウェア「Elements」のバグに特定したと説明している。このバグを通じて、本来存在しないはずのL-BTC(Liquid上のビットコイン連動トークン)が不正にミント(発行)され、それがフェデレーションウォレットからの引き出しにつながった、というのが現時点での説明だ。
SideSwap(引き出しに使われたペグアウト認可鍵=PAKの提供元)は、PAK自体や他の鍵は侵害されていないと説明しており、鍵の盗難ではなくソフトウェアの欠陥が原因だったという整理になる。
【9月9日追記】原因の技術的詳細と準備金の最終状況
Liquid Networkは9月9日、これまで非公開だった技術仕様を含む公式説明を追加で公表した。原因は、Elementsの検証プロセスにある「レンジプルーフ(rangeproof、金額を秘匿しつつ不正な値でないことを証明する仕組み)」の検証キャッシュに存在したバグだったという。攻撃者はLiquid連合(Liquid Federation)の一員であるSideSwapの標準的なペグアウト機能を通常どおりの手順で利用しただけで、検証エラーがペグアウト実行前の取引段階で発生していたため、SideSwap側のノードとLiquid連合の各機能ノードはこれを正規のL-BTCとして受理してしまった。機能ノードのハッキングや秘密鍵の漏えいはなく、ペグアウトの仕組みそのものは設計どおりに作動していたとBlockstreamは説明している。
事件前に約4,205BTCあった準備金は、9月6日の流出とその後停止までに処理された追加のペグアウト分を合わせ、約197BTCまで減少したことも判明した。Blockstreamは修正済みソフトウェア「Elements v23.3.4」の緊急版を48時間以内をめどに公開し、機能ノード運営者による不正なペグアウトの無効化などの調整を経てネットワークの正常化を進める計画を示している。その後、Liquid Networkの取引は9月10日に再開したが、ペグアウト(ビットコインへの払い戻し)は10月2日時点でも停止したままだ。ノードを運営していない一般利用者が独自に取るべき追加対応はないとしている。
【10月2日追記】今はどうなっている?取引は再開、ペグアウトは停止中
Liquid Networkは9月10日に取引を再開しましたが、L-BTCをビットコインに戻す「ペグアウト」は10月2日時点で止まったままです。Blockstreamは、L-BTCが1対1でビットコインに裏付けられていることを確かめ、ソフトウェアの更新と独立した安全確認を終えてから、ペグアウトを再開するとしています。9月28日には外部の監査が始まり、ペグアウト用の鍵の入れ替えも進んでいますが、再開の日程はまだ公表されていません。
事件の第1報(9月6〜7日)からの流れは次のとおりです。
| 日時(UTC) | 出来事 |
|---|---|
| 9月6日 13:53 | Elementsのレンジプルーフ検証キャッシュの欠陥を突かれ、裏付けの無い約4,000 L-BTCが作られる |
| 9月6日 14:28 | SideSwapのペグアウトを通じて、約3,996BTCがビットコイン本体に引き出される。準備金は約4,205BTCから197BTCに減る |
| 9月6日 18:26 | Blockstreamがブリッジノードを止め、ネットワークを停止。取引所にL-BTCの入出金の停止を通知 |
| 9月6日 18:30 | 実行者がビットコインのチェーン上に「we are whitehats. contact us on chain」(我々はホワイトハットだ)と書き込む |
| 9月7日 16:09 | 実行者が3,400BTCを返還 |
| 9月9日 | 修正版「Elements v23.3.4」を公開。ブロック生成を再開 |
| 9月10日 | 利用者の取引が再開。ペグアウトは停止のまま |
| 9月17日 | Liquid公式が「取引は通常どおり、ペグアウトは停止中」と更新 |
| 9月23日 | Blockstreamが事故の報告書を公表。未回収は約602BTC |
| 9月28日 | 独立した外部の監査(Elements v23.3.4)が始まる。ペグアウト用の鍵(PAK)の一覧を入れ替え、すべての鍵をコールドストレージで保管する作業を調整中。再開の日程は示されず |
出典:Blockstream「Liquid Network Security Incident Assessment」(2026年9月23日)、Liquid Network公式X(2026年9月17日時点の更新)、同(2026年9月28日時点の更新)。2026年10月2日確認。
USDT(USDt)やDePixなど、Liquid上のL-BTC以外の資産は今回の事件の影響を受けていません。ただし、ネットワークが止まっていた9月6日から10日までは使えませんでした。
「返金の手続き」「資産の移動が必要」などの連絡には応じないでください。Blockstreamは9月9日、Liquid・Blockstreamを名乗る一方的なメッセージに応じないよう注意を出しています(Blockstream公式ブログ)。
現時点で分かっていないこと
- 当事者(ホワイトハット)の身元
- 未回収の約602BTC(Blockstreamの報告。報道では598.5BTC)が戻るかどうか
- ペグアウト(L-BTCをビットコインに戻す手続き)が再開される日時
L-BTC利用者が今すぐ確認すべきこと
- 85%が返還されたとはいえ、資金が完全に元通りになったわけではない。自分が利用する取引所・サービスのL-BTC入出金が正式に再開されたか、公式アナウンスで確認する
- 「資金が返還されたので今すぐ手続きを」といった趣旨の連絡が来ても、フィッシング詐欺の可能性を疑い、公式サイト・公式Xアカウント以外の情報源は信用しない
- 今回のようにブリッジ・サイドチェーンには、鍵の盗難だけでなく基盤ソフトウェアのバグという形でもリスクが生じうる。特定のブリッジ・サイドチェーンに資産を集中させず分散させておく習慣が、こうした局面での被害を最小化する
まとめ:Liquid Networkから引き出された約4,000BTCのうち、85%にあたる3,400BTCが返還され、原因もElementsのrangeproof検証キャッシュのバグと判明した。残る約602BTC(報道では598.5BTC)の扱いは依然未確定で、当事者の身元も明らかになっていない。修正版「Elements v23.3.4」の公開後、9月10日に取引は再開したが、ペグアウトは10月2日時点で停止したままだ。L-BTC利用者は、ペグアウトと取引所の入出金の再開を公式アナウンスで確認し、不審な連絡には引き続き警戒したい。続報があれば本記事を更新する。
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